2015年03月13日

映画「アメリカンビューティー」のシナリオと映像に見るアメリカの本音と建前

アメリカに行く機会があり、ちょうどいい機会だったので今日は映画「アメリカンビューティー」の映像表現とシナリオから、アメリカという国について考えてみたいと思います。


今日の映画はこちら



1999年に制作された作品で今更感がありますが、同年度のアカデミー賞5部門に輝いた名作です。
私が初めてこの作品を見たのは大学生でしたので、正直その時にはこの物語の「本質」は分かりませんでした。


むしろ、見ている間は人間のむき出しの欲望が描かれたシーンに息苦しささえ感じました。


しかしこの物語は悲劇であるにもかかわらず、ラストシーンを見たときにある意味清々しさを感じ、ほんの少し救われた気がしました


見た後不思議な気分のする作品である、という印象が強かったのです。



この映画の本質について考える前に、ちょっとみなさんに質問をしたいと思います。




「日本人は本音と建前を使い分けるから、欧米人から見れば何を考えているのか分かりづらい。」


みなさんは、こう聞いてどう思いますか?

おそらく大部分の人が肯定するでしょう。

私もそうでした。


日本人は欧米人と比べて感情を表に出さずに、声も小さい。ジェスチャーも小さく、自分の意見をはっきりと言わずに「以心伝心」を期待する。


本音をはっきりと言わずに建前を使う一方で、欧米人は率直に物を伝える。


そういうイメージって結構強いんじゃないか、と思います。



しかし、最近私はアメリカ人と接する中で(機会が多いわけではありませんが)本当にそうなのか?と思い始めるようになりました。


そんな折、私の疑問に対して非常に明快に回答してくれたネットの記事がありました。

こちらです。

「英米人は日本人より本音を言わない」

日経ビジネスオンラインの記事です。


内容を要約すると、以下の通りになります。



日本人は本音を言わず、欧米人は単刀直入に話すというのは逆ではないか。


例えば、馴染みの料理屋に入って店主と少し話すと、「実は病気してて困っている」などと他のお客が大勢いる中でも本音を話し始める。


これに対して、欧米人は会社の同僚などかなり親しい間でも自分の胸の内を打ち明けることは少ない。相手を信頼し、本音で語り合う傾向にあるのはむしろ日本人。


上司が部下を呼んで仕事の評価をする際にも、基本的には良いことしか言わない。ただ、「今年の営業成績はもう少しいけたはず。とはいっても景気が悪かったのが最大の要因ではあるけれどね」などとフォローを入れるが、欧米人の部下としては「相当厳しいことを言われた」と思うはず。


職場に顧客とのトラブルを抱えた問題児がいた場合には、「彼は資料作りのエキスパートだから、顧客係はもったいない」、遅刻した部下には「早起きは君の最高の強みではないよね」と言う


褒め言葉の中から、その微妙なニュアンスの違いを感じ取って本音を測るのが英米文化


「not very good」の本当の意味は「かなり悪い」。「OK」はまずまず


本音を隠して陰険だ」と捉えられるかもしれないが、「物事を良いイメージで捉えられる」長所でもある


と結んでいます。



アメリカでは自由と平等が非常に重視されています。非常に耳障りの良いことを言う一方で、人種間の差別は厳然として残っています。




テレビなどの暴力描写は過剰なまでに敏感になる一方で、銃器が簡単に手に入り、銃を使った犯罪は非常に多いです。




ドラッグやアルコールなどの規制は非常に厳しいにもかかわらず、それらが蔓延し簡単に手に入る環境もあります。




オバマ大統領が医療保険改革で国民皆保険を導入しようとすると、保守派層からかなり強い反対にあったことを覚えている方もいるでしょう。




こうした社会状況を見ると、アメリカこそ「本音」と「建前」が厳然として存在する国なのではないか、と個人的に思い始めるようになってきました。




前置きが長くなりましたが、ここで「アメリカンビューティー」の話に戻ります。


「アメリカンビューティー」で描かれるのは、ごくごく一般的なアメリカのアッパーミドル、いわゆる中産階級でも経済的に恵まれた中流上位の層の「核家族」です。


広い庭に大きな一軒家を構え、高級車を二台も保有しています。ケビン・スペイシー演じるレスターは広告会社に勤務し、アネット・ベニング演じる妻キャロリンは不動産関係の仕事をしています。


高校生のかわいい娘ジェーンもいて、表面的にはアメリカの美徳=アメリカン・ビューティーとされるものを持っているかのように見えます。


しかし、蓋を開けてみれば生活に情熱のなくなった夫と世間体ばかりを気にする見栄っ張りな妻。もう長い間夫婦関係はなく、それぞれお互いに関心が薄れ、娘との会話も少なく、主人公はシャワーで自慰行為にふけることが唯一の楽しみ。


そして、あろうことかレスターは隣人の子供リッキーからマリファナを購入し、娘の同級生ジェーン(高校生)を一方的に好きになる。そして、妻は妻で不倫に走る。


隣人は非常に厳格な父親の「フィッツ大佐」と、精神を病んでしまった母親、そして盗撮をする息子のリッキー。




もうね、はっきり言って最悪です(笑)



これから大人になることに希望を抱いていた大学生が見るものじゃありませんでしたな(笑)





実のところ、アメリカとは見た目やイメージとしての「素晴らしさ(建前)」と実際の「現実(本音)」が相当使い分けられているように思えます。

ここを理解しないと「アメリカ」という国が分からないのではないでしょうか。


この現状が、映画の中の家族や隣人関係に落とし込まれていて、非常に考え抜かれた設定になっています。


つまり、アメリカンビューティー(アメリカの美徳)とはこのアメリカの「建前」と「本音」を示したものであるのでしょう。



サム・メンデス監督はイギリス出身だからこそ、アメリカ人にとっては気づきにくいタブーをここまでしっかりと描き切ることができたような気もします。



アメリカンビューティーに見る空撮の役割




この作品は、冒頭レスターの独白とともに、町の空撮から始まります。この空撮が非常に良い効果を出していて、観客を物語に引き込む演出であると同時に、この物語が、死んだ主人公(魂)の視点から語られることを観客に知らしめる効果ももたらしています。そして、ラストも空撮で終わる。ここも、レスターが死亡してこの世から離れていくとともに、観客に対しても映画の世界から現実の世界に意識を戻させる役割を果たしています。




物語は救いようのない悲劇であるにもかかわらず、ラストシーンで感動する理由


(ネタバレ要注意です)



物語は、すでに亀裂が入っている家族の崩壊が描かれるため、正直言って鑑賞中はどんどん嫌な気分になりました。ユーモアもブラックすぎて、正直ついていけないとさえ思ったほどです。


しかし、鑑賞後はどこかふっと心に沁みる何かが残るのです。



それは、シナリオ的な部分でいうと、物語の終盤までは崩壊し続ける家族が容赦なく描かれますが、レスターは最後の最後で人間としての「良心」を取り戻すのです。その瞬間、これまでの人生の良い記憶をも思い出す。


アメリカ社会のストレスや矛盾はあるにせよ、それでもそこから自力で「良い方向へと向かおうとする」力はまだ残されているのではないか。本来のアメリカンビューティー(アメリカの美徳)とはそうではないのか。



救いの余地が残されているのです。


そして、冒頭の独白通り、レスターは殺されます。



しかし、自分が死ぬその瞬間、これまでの溢れんばかりの美しく光る思い出が、レスターの死にゆく脳裏に駆け巡るのです。



ここの映像的な演出が素晴らしい。レスターの独白とピアノの美しい音楽に乗せて、レスターの過去の回想シーンとレスターが死んだ時の他の人物の様子が交互に映し出されます。ここをカメラの動きとディゾルブをつかってゆるやかにショットをつないでいる。


これまで映像に「赤」が多用されている分、回想シーンのモノクロ映像が良いコントラストになっています。

レスターの穏やかな独白もあいまって、非常に感動的なシーンになっているのです。


家庭が崩壊しかけ、しかも自分は殺されたにもかかわらず、最期にレスターが抱いた感情は、感動と感謝の念と安らぎ。そして家族への想い。




人は死ぬ瞬間、圧倒的な光に包まれて、この世の中のすべてのものが光り輝き、とても美しく見えるそうです。この世の中で抱いてきた負の感情はすべてなくなり、そして感謝の念だけが残る。


これこそが本当の美しさなのかもしれません。この美しさは普遍的であるからこそ、アメリカ人ではない私が見ても、感動を覚えたのではないでしょうか。


この感動は、この世の中のあらゆる不条理なことや醜いことがあるからこそ一層光り輝く。耳障りの良い建前ばかり言っていても、醜い本音が現実として立ちはだかっている現実を容赦なく映画の中で描いたからこそ、このラストが煌めいて見えるのかもしれません。




感謝の念や安らぎを実感するのは、死んだ時というのが非常に寂しいところですが、だからこそリアリティーがあるのでしょう。





posted by DY Duke at 18:08| Comment(0) | 映画レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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